第12話 ヒールの音

    独身の頃。私は、およそ3年に1回は賃貸物件を、引っ越ししていた。5、6軒は引っ越ししただろうか。転勤などで仕方のないこともあったが、主な原因の一つには、上階の生活音があった。

 ドスドスと歩く音や、壁をドンドン叩く音が気になったこともあったが、大抵の物件で我慢できなかったのが、夜中にコツコツと響くヒールの音だ。何処に引っ越しても一緒。夜中の2、3時に上の階では、部屋の中をコツコツと歩いているのだ。上階も同じ間取りだと思うのだが、夜中に寝室をコツコツと何周もしている。どの物件でも、管理会社にクレームを入れても効果は無し。毎晩真夜中に起こされてしまう。最終的には、諦めて、引っ越ししてしまうのだ。しかし、ヒールの音は、引っ越し先についてくる。

 一度、妹が夜遅くまで私の家にいた時、いつものようにヒールの音が響いてきて、吃驚されたことがある。「何の音!」「明らかに上の階だよね!」「こんなに大きい音だったんだ!」私が神経質なだけと思った事もあったが、他の人も驚く程の音のようだ。

 結局、ヒールの音は、結婚して一軒家に引っ越すと、やっと、ついてくるのを諦めたらしい。

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