第13話 大鏡
中国の大学に留学した時の話。私の母校は中国のとある大学と提携していて、毎年夏休み中の一ヶ月程度の期間、語学留学生派遣の制度があった。語学が好きだった私も応募し、約30人の学生と一緒に留学に参加した。 船旅で3泊4日、やっとの思いで中国に到着し、様々な手続きを経て、現地の大学が手配した留学生寮に着いた。寮は男女別の棟に分かれていて、それぞれが荷物を部屋に置いてから共同の食堂に集まった。 食堂では、今後のオリエンテーションが予定されている。少し遅れて私も食堂に行ってみると、何だか雰囲気がおかしい。ひそひそと小声で何か話しづらいことをみんなで話しているようだ。 もちろん気になるので、何があったのと友人に聞いてみた。友人の話はこうだった。「学生寮の玄関に大きな鏡があったでしょ。女子棟も同じ作りらしいんだけど、ある女の子がその大鏡を見た瞬間に悲鳴を上げて、私この建物には入れない!って泣きながら言い出して…ちょっとした騒ぎだったらしいよ。」 結局、彼女は別棟に部屋を取ってもらうことになったのだが、最後まで一体何を見たのか、皆が聞いても首を横に振るだけで、口にしなかったらしい。口に出すことさえ憚られるモノ。彼女は何を見てしまったのだろうか。