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第16話 袈裟の坊さん

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    高校生の頃の話。ふとしたはずみで心霊写真のようなモノを見つけてしまった。河原で焚き火をし、飯盒でご飯を炊いている。同級生5、6人が写っている、何の変哲もない写真だ。  写真の右斜め上に、白っぽい煙の様な固まりが写り込んでいる。袈裟を掛けたお坊さんのようだ。ちょうど、寮室でみんなで雑談している時に見つけたので、みんなに見せてみた。  みんなの反応は、「確かにそう見える」とか「焚き火の煙じゃないの?」とか、様々であったが、焚き火の煙だとすると不自然な場所に写っているし、写っている焚き火の煙とは質感が違っていた。  そのうち、その写真に写っている一人が、この写真なら自分も持ってる、と言い出した。学校の行事で写した写真なので、同じものを焼き増しして持っているらしい。ちょっと取ってくるね、と彼は部屋に取りに戻った。  数分して戻ってきた彼は首をかしげている。そんなの写っていなんだけど…、彼は言う。同じ写真である。だが、確かに白い固まりは全く写っていない。みんなで理由を考えてみたが、分かるはずもなく、結局、全員が黙り込んでしまった。

第15話 父の背中

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  私の父の子供の頃の話。父は子供の頃、山奥の集落に住んでいた。ある日、父の父親が用事があって一山越えた隣の集落に行くこととなった。それに父もついていくことになった。  用事が長引き、帰り道は大分暗くなっていた。早く家に着くために父は父の父親におんぶしてもらって、山道を早足で歩いていた。  ふと、突然父の父親が立ち止まった。立ち止まったまま木の上をじっと見つめている。少しして、また突然父の父親は歩き始めた。先ほどよりも大分早足である。  父は一連の行動を不思議に思い、背中から「どうしたの?」と聞いてみた。父の父親の返事はこうだった。「木の上に人がいた。あれは同じ村のSさんだった。」Sさんは病気で数ヶ月寝込んでいる人であった。そんな人がこんな夜中の山の中に?父はにわかには信じられなかった。  村に着いたら、父の疑問は氷解した。村ではSさんのお通夜のちょうど真っ最中だった。

第14話 シートベルト

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    小学生の頃の話。正月を過ぎて間もなく、曽祖父が亡くなったという知らせが入った。曽祖父の家は車で5時間ほどのところにある。早速家族4人車で曽祖父のお葬式に向かった。  大雪の日だった。曽祖父の家まで約半分くらいのところで、スリップして対向車線をはみ出した対向車とモロに衝突した。運転していた父は首の骨を折る全治6ヵ月の重体、助手席の私を含む残りの3人は奇跡的に軽傷で済んだ。  一時は病院のICUで生死の境をさまよっていた父だったが数日経ってようやく危篤状態を脱した。  そんな一息ついた折の頃。母がこんな事を呟いた。「出発前、お父さん、みんなに「シートベルトしたかー」って言ったよね。あれでみんなシートベルトしたから後ろの私たちも含めて大怪我なかったけど、普段お父さんシートベルトのことなんか言わないよね。」    30年以上前の話。シートベルトについては今よりだいぶ緩い時代。結局父がシートベルトの話をしたのはその時が最初で最後だった。