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第22話 ALT

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 高校時代の話。通っていた学校にALT (外国語指導助手)が来るようになった。複数名配置されたため自分のクラス以外のALT は名前も顔をよくわからない。  ALTの配置があった日、別のクラスのALTと廊下ですれ違った。一緒にいた同級生に、「今の先生、ジョン、ぽくない?」と、ふと頭をよぎった名前を口に出してみた。  「え?なんで知ってるの?」後ろから声が掛かった。隣のクラスの生徒だ。なんとなく…と、しどろもどろに答えると、「よくありそうな名前だけども…よく分かったねー」  彼は感心した顔で自分のクラスに入っていった。

第21話 地震

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    引越しの前日。遅くまで荷造りをして、くたくたになって深夜眠りについた。  それからほんの数時間後、パッと目が覚めた。なんの根拠もなかったが、「地震が来る」そう思った。  モノが多い方なので、荷造りの段ボールは日に日に床を占めて、引越しの前日ともなるともう置き場所がなく、最後のいくつかの荷物は3段積みになっていた。  3段積みの段ボールが危ない!咄嗟にそう思った私は、そこに駆け寄った。  段ボールを抱えた瞬間、少し大きな地震が来た。しっかり抱える時間があったお陰で、中の食器などは倒壊せずに壊れることなく済んだ。  さて良かったなと寝床に戻る途中、目が覚めたきっかけは?なんで地震が来ると思ったの?いくつかの疑問が浮かんできたが、疲れていたので気にしないで眠ることにした。  

第20話 墜落現場

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  昔、男子寮にいた時の話。夜寝ている時、毎晩のように金縛りにかかっていた。そしてほぼ毎回、金縛りの最中にはドアノブをガチャガチャ回す音がする。  昼寝の最中にも金縛りとドアノブの音に悩まされていた。金縛りが解けた後同室の同級生に、今ドアノブガチャガチャ言ってなかった?と聞いても、そんな音はしないという返事だった。  そんなある日、寮監の先生が部屋を訪ねてきた。ちょっとした用事を済ませた後、何の気なしに寮監の先生に金縛りとドアノブの話をしてみた。寮監の先生は、ちょっと驚いた顔をした後、こんな話をしてくれた。  この寮は何回か増築しているのだが、何回目かの増築工事の時に死者が出ている。高所から足を滑らせてそのまま地面に…ちょうど一階のこの部屋のドアの外側あたりが墜落現場だ。  頻繁な金縛りとドアノブのガチャガチャ音は、私に何かを伝えたくて、なっていたものだったのだろうか。

第19話 すいません…

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    今朝の出来事。私はいつもスマホの目覚ましで朝起きているのだが、今朝は、うっかり二度寝をしてしまった。  それから程なく、スマホから「すいません…」と声が聞こえた。びっくりして飛び起きると遅刻寸前の時間だった。身支度には慌てたものの、なんとか事なきを得た。  身支度をしながら、今のはなんだったんだろう、と考えてみると、どうもSiriが何故か起動して「すいません…」とだけ答えて切れたらしい、という考えに至った。とはいえ、何故そんな誤作動が起こったのかは全くの不明だ。  いずれにせよ遅刻はしなかったのだから、まあいいかと深く考えることは止めにした。

第18話 夢見が悪い

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    第14話 シートベルト の後日談。亡くなった母方の祖母は、いわゆる「夢見が悪い夢」を見る人だった。主に人の生き死にや怪我などに関する夢を見ていたようだ。たまに我が家にも夢見が悪いから、と気をつけるようにとの連絡が入っていた。  父が交通事故で首の骨を折る重傷を負った時も、祖母は不思議な夢を見ていたそうだ。  暗闇に父が正座している。祖母が近づいていくと、父は自分の首を何度もなでながら、必死に何かを訴えかけている。言葉は聞こえない。それを見て祖母は、わかった、わかった、と何度も父に返事をする。そんな夢だったらしい。  祖母は、夢の中では、わかった、と言ったものの、何をわかったのかも含めて、その夢の意味が分からなかったらしい。事故が起きてからそういう意味だったのかと合点がいったそうだ。  そのほかにも祖母の夢見については話があるが、それはまた別の機会にしたいと思う。

第17話 左耳

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    私の家族は皆左耳が悪い。母は子供の頃高熱を出した時に左耳が聞こえなくなった。妹は生まれつき左耳が聞こえづらい。父は事故で左耳の聴力がほとんど無くなった。その事故というのに私は絡んでいる。  母に訊ねると、私が2、3歳の頃のことらしい。記憶を辿ってみると…父が立ったまま耳かきで耳掃除をしている。それを見た私はチャンスだと思い、思いっきり父にぶつかっていく。次の場面では、父が高熱を出して床に伏せっている。  うまくいった、そう私は思っている。そんな記憶だ。それ以来父は左耳がほとんど聞こえない。子供の悪戯にしては酷い内容だ。なぜそんなことをしたのかもよく覚えていない。まるで誰かに操られていたかのようだ。  そんなことがあってから、私は物心が付いてから、左耳の掃除をする際、必ず周りに誰かいないか気にするようになった。あの時の私のように、急に誰かが飛び掛かってきては大変だ。そんな努力も虚しく、利き耳でである私の左耳の聴力は少しずつ低下してきている。理由は不明だ。  私の家族の左耳が皆悪いのは、単なる偶然なのだろうか、それとも何かの因果なのか。

第16話 袈裟の坊さん

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    高校生の頃の話。ふとしたはずみで心霊写真のようなモノを見つけてしまった。河原で焚き火をし、飯盒でご飯を炊いている。同級生5、6人が写っている、何の変哲もない写真だ。  写真の右斜め上に、白っぽい煙の様な固まりが写り込んでいる。袈裟を掛けたお坊さんのようだ。ちょうど、寮室でみんなで雑談している時に見つけたので、みんなに見せてみた。  みんなの反応は、「確かにそう見える」とか「焚き火の煙じゃないの?」とか、様々であったが、焚き火の煙だとすると不自然な場所に写っているし、写っている焚き火の煙とは質感が違っていた。  そのうち、その写真に写っている一人が、この写真なら自分も持ってる、と言い出した。学校の行事で写した写真なので、同じものを焼き増しして持っているらしい。ちょっと取ってくるね、と彼は部屋に取りに戻った。  数分して戻ってきた彼は首をかしげている。そんなの写っていなんだけど…、彼は言う。同じ写真である。だが、確かに白い固まりは全く写っていない。みんなで理由を考えてみたが、分かるはずもなく、結局、全員が黙り込んでしまった。

第15話 父の背中

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  私の父の子供の頃の話。父は子供の頃、山奥の集落に住んでいた。ある日、父の父親が用事があって一山越えた隣の集落に行くこととなった。それに父もついていくことになった。  用事が長引き、帰り道は大分暗くなっていた。早く家に着くために父は父の父親におんぶしてもらって、山道を早足で歩いていた。  ふと、突然父の父親が立ち止まった。立ち止まったまま木の上をじっと見つめている。少しして、また突然父の父親は歩き始めた。先ほどよりも大分早足である。  父は一連の行動を不思議に思い、背中から「どうしたの?」と聞いてみた。父の父親の返事はこうだった。「木の上に人がいた。あれは同じ村のSさんだった。」Sさんは病気で数ヶ月寝込んでいる人であった。そんな人がこんな夜中の山の中に?父はにわかには信じられなかった。  村に着いたら、父の疑問は氷解した。村ではSさんのお通夜のちょうど真っ最中だった。

第14話 シートベルト

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    小学生の頃の話。正月を過ぎて間もなく、曽祖父が亡くなったという知らせが入った。曽祖父の家は車で5時間ほどのところにある。早速家族4人車で曽祖父のお葬式に向かった。  大雪の日だった。曽祖父の家まで約半分くらいのところで、スリップして対向車線をはみ出した対向車とモロに衝突した。運転していた父は首の骨を折る全治6ヵ月の重体、助手席の私を含む残りの3人は奇跡的に軽傷で済んだ。  一時は病院のICUで生死の境をさまよっていた父だったが数日経ってようやく危篤状態を脱した。  そんな一息ついた折の頃。母がこんな事を呟いた。「出発前、お父さん、みんなに「シートベルトしたかー」って言ったよね。あれでみんなシートベルトしたから後ろの私たちも含めて大怪我なかったけど、普段お父さんシートベルトのことなんか言わないよね。」    30年以上前の話。シートベルトについては今よりだいぶ緩い時代。結局父がシートベルトの話をしたのはその時が最初で最後だった。

第13話 大鏡

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    中国の大学に留学した時の話。私の母校は中国のとある大学と提携していて、毎年夏休み中の一ヶ月程度の期間、語学留学生派遣の制度があった。語学が好きだった私も応募し、約30人の学生と一緒に留学に参加した。  船旅で3泊4日、やっとの思いで中国に到着し、様々な手続きを経て、現地の大学が手配した留学生寮に着いた。寮は男女別の棟に分かれていて、それぞれが荷物を部屋に置いてから共同の食堂に集まった。  食堂では、今後のオリエンテーションが予定されている。少し遅れて私も食堂に行ってみると、何だか雰囲気がおかしい。ひそひそと小声で何か話しづらいことをみんなで話しているようだ。  もちろん気になるので、何があったのと友人に聞いてみた。友人の話はこうだった。「学生寮の玄関に大きな鏡があったでしょ。女子棟も同じ作りらしいんだけど、ある女の子がその大鏡を見た瞬間に悲鳴を上げて、私この建物には入れない!って泣きながら言い出して…ちょっとした騒ぎだったらしいよ。」  結局、彼女は別棟に部屋を取ってもらうことになったのだが、最後まで一体何を見たのか、皆が聞いても首を横に振るだけで、口にしなかったらしい。口に出すことさえ憚られるモノ。彼女は何を見てしまったのだろうか。

第12話 ヒールの音

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    独身の頃。私は、およそ3年に1回は賃貸物件を、引っ越ししていた。5、6軒は引っ越ししただろうか。転勤などで仕方のないこともあったが、主な原因の一つには、上階の生活音があった。  ドスドスと歩く音や、壁をドンドン叩く音が気になったこともあったが、大抵の物件で我慢できなかったのが、夜中にコツコツと響くヒールの音だ。何処に引っ越しても一緒。夜中の2、3時に上の階では、部屋の中をコツコツと歩いているのだ。上階も同じ間取りだと思うのだが、夜中に寝室をコツコツと何周もしている。どの物件でも、管理会社にクレームを入れても効果は無し。毎晩真夜中に起こされてしまう。最終的には、諦めて、引っ越ししてしまうのだ。しかし、ヒールの音は、引っ越し先についてくる。  一度、妹が夜遅くまで私の家にいた時、いつものようにヒールの音が響いてきて、吃驚されたことがある。「何の音!」「明らかに上の階だよね!」「こんなに大きい音だったんだ!」私が神経質なだけと思った事もあったが、他の人も驚く程の音のようだ。  結局、ヒールの音は、結婚して一軒家に引っ越すと、やっと、ついてくるのを諦めたらしい。

第11話 ため息

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    昨日のことである。病院で働いている妻が体験した話。妻はいつものように、病院のゴミ集積所に廃棄物を出しに行った。ゴミ集積所の隣には、やすらぎの間、つまり霊安室があり、二つの施設の外への出入り口は共用になっている。  妻が廃棄物を分別していると、大きな音で「はぁ〜」とお婆さんのため息が、はっきりと聞こえた。病室の患者がつく、ため息の声とよく似ていたので、誰かいるのかと思い、あたりを見回したが、誰もいない。  今でこそだれもいないが、その日は3人の方のお見送りがあった日だったので、つい先ほどまで遺族や看護師、業者などでばたばたしていた空間だ。見送られる側もやっと一息ついたのかもしれない。  こういうこともあるものだな、と妻は妙に納得して、淡々と私に話しをしてくれた。

第10話 およげ!たいやきくん

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    3歳くらいの記憶。集合住宅に住んでいた頃。母は家事の合間に、同じアパートの奥さん方と井戸端会議をするのが日課だった。母が外に出る時、玄関の外側から鍵をかけていた。鍵の開け方がわからなかった私は、そうすることによって毎日家に閉じ込められていた。井戸端会議には私が邪魔だったのだろう。  その日も外側から鍵をかけられ、私は家に閉じ込められていた。家の中で退屈にしていると、なんと、冷蔵庫の下からずるずると人影が出てくる。よく見るとその頃流行っていた、「およげ!たいやきくん」を歌っている、子門真人が出てきたのだった。  子門真人は、親切にも玄関の内鍵を開けてくれた。そして鍵の開け方も教えてくれた。私は大喜びで外に出て、母のところに行って、今の出来事を話した。  母は、もちろん子門真人の話は信じなかったのだが、私が外に出てきたことにびっくりしていたようだった。母は玄関の鍵の開け閉めを私に見えないように、体で隠していたからだ。  今考えれば子門真人の事は夢だったのかもしれない。ただ、次の日から私は自由に外に出ることができるようになったのは事実だし、母もそのことについてはとても不思議がっていた。

第9話 X’mas

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    第6話 昭和50年  の続きの話。今度は同じデパートの内での記憶だ。「さよならセール」と垂れ幕があっただけあって、デパート内も年の瀬の雰囲気だ。  エスカレーターに乗っていると見えてくるディスプレイの中に「x’mas」の文字がある。それを「ちゃんと読めた」私は、わざと母に対して「バツマスってなーに?」と聞くのだ。母はそれに対して、「あれはクリスマスって読むんだよ」と普通に返事をしている。そんな記憶だ。  第6話の時にもお話ししたが、その時私は1歳。1歳の子どもが、こんなふうに冗談を交えた受け答えをするものなのだろうか。不思議な話である。

第8話 ラジオ

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    学生時代、全寮制の学校に通っていた。寮室は2人部屋で消灯時間は夜1時だった。ある日の消灯後のお話。  消灯してから間も無く同室の友人の方から、ボソボソと声が聞こえる。どうも、ラジオを聴いているようだ。と、その時あることに気がついた。この寮の消灯はブレーカーごと落とすのでコンセントからも電気が供給されない。いったい、どうやって音が出ているのだろうか。  友人に声をかけてみた。「ラジオ聴いているの?」友人はこう答えた。「やっぱり聞こえる?」友人も困惑しているらしい。「電池で聴いているんじゃないんだよね?」友人は首を横に振りながら、ボソボソと音が聞こえるコンポのコンセントを見せてくれた。壁のコンセントからは完全に抜けている。「どうやって音が出ているの?」「分からない…」と友人。  結局原因は分からずじまい。ただ、同じ出来事は、その友人と同室の1年間の間に、4、5回あったことを記憶している。

第7話 ぐりん

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    通勤途中。横断歩道を渡るために信号を待っていた。私の左隣に男性が一人。片側2車線の道路だった。  一台の車が手前のレーンの停止線に止まった。車側の信号機が赤になったのだろう。歩行者用の信号も、もうすぐ青に変わるはず。  信号が変わって、左隣の男性が信号を渡り始めた。ところが、私は信号が青になっても渡らなかった。「渡ってはいけない。」なんとなく嫌な気がしたのだ。  青信号を立ち止まったままの私。そこに車道の奥のレーンを、一台のタクシーが突っ込んでくる。信号を渡っていた男性の直前で急ブレーキ。事なきを得た。もし私も信号を渡っていたら、ちょうどはねられていたかもしれない。危ないところだった。  唖然としながらも、ほっと胸を撫で下ろしていると、タクシーの運転手が、ぐりん、と首を右斜め後ろに回して私の方に向いた。そして、私に向かって何か話している。  ぶつかりそうになった男性や、後ろに乗っていたお客さんに何かを言うなら分かるのだが、何故私なのだろうか?結局タクシーの運転手は私に何を話したのかは分からなかったが、おそらくこう言っていたのではないか。  「ドウシテワカッタノ?」あくまで想像ではあるが…

第6話 昭和50年

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 子供の頃の記憶。川沿いの堤防沿いに道を歩いている。両手は母と母の妹に手を繋がれている。たまに手を引っ張って体が宙に浮く。  だんだんと目的地のデパートが近づいてくる。7、8階建てくらいだろうか。屋上から垂れ幕が掛かっている。「昭和50年さよならセール」と書いてある。年の瀬なのだろう。  この場面での記憶は今述べたとおりだ。なんの変哲もない子供の頃の記憶なのだが、私はこの記憶に合点がいかないところがある。  私は昭和48年生まれなのだ。つまりこの記憶は私が1歳数ヶ月の頃のもの。ある程度のひらがなが読めるのは、まあ、あり得るとしても、なんで「昭和」が読めているのか?不思議な記憶である。  

第5話 この人じゃない

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    お付き合いをしていた頃の話。彼女の部屋に泊まった日、一緒に寝ていると、夜中に急に目が覚めた。体は動かず金縛りにかかっている。さてどうしたものかと考えていると、ゆっくり、ギシ、ギシ、と階段を登ってくる足音がする。ちなみに、一階は大家さん、玄関が別になっていて、階段を登って二階を貸し間としているという作りだ。  階段を登り終えた足音は、部屋の中に入ってきて、布団に近付いてくる。何か見てしまったらイヤなので目を瞑って寝たフリをした。それでも、とうとう足音は私の隣にたどり着いて、座り込んでしまった。  隣に座ってから、数分経っただろうか。やがて、足音の主はゆっくりと、私の顔を覗き込んできた。5分、10分、ただただ、じっと顔を覗き込んでいる。ずっと寝たフリを決め込んでいると、ようやく足音の主は立ち上がり、部屋を去っていった。  ちょっと気に掛かったのは、足音の主が立ち上がる直前「この人じゃない…」と聞こえた事だ。それ以降、お付き合いの相手とはだんだん疎遠になり別れてしまった。  足音の主は、いったい誰で、この人じゃない、とはどういう意味だったのか。今となってはわかるすべもない。

第4話 方向音痴

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 私は筋金入りの方向音痴だ。デパートから帰ろうとして、出口を見つけようと散々うろうろしたところ、気づいたら結局2階をさまよっていただけだった、なんて経験はざらである。  休日に目的地を決めずに、ドライブをした時の話。適当に車を流していたら、だんだんと交通量も減り、風景も寂しくなっていった。そのうち案内標識に見慣れない街を見つけたのでなんとなく、そちらにハンドルを切ってみた。  程なく目的地に着いてみると、そこは人影が全くなくゴーストタウンのようだった。最後の看板には、「○○鉱山」と書いてあったので、廃坑にでもなったのだろう。ついでと思って、車を降りてその辺を歩いてみた。  だが、何かがイマイチしっくりとこない。何故だろうと考えてみると、ゴーストタウンにしては、家屋も高層棟もそして道路も、全てが新しすぎるのだ。まるで昨日までみんなが住んでいて、生活していたとしても不思議ではない雰囲気である。ただし生活感は全くない。街からヒトだけが急に消えてしまったような感じだ。だんだん怖くなってきて、車に戻り足速に街を立ち去った。  その後、その街には行っていない。怖いのも理由の一つなのだが、方向音痴のせいで、そもそも、どこをどう行ったのか全く覚えていないのだ。

第3話 13対1

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 受験生の頃の話。寮の二人部屋で、朝晩受験勉強に明け暮れていた。そんな中、ほんの息抜き、楽しみの一つが、別な部屋の友人がこっそり寮に持ち込んでいた、携帯テレビ(携帯電話もない時代)を観ることだった。  私は熱狂的な、野球のLチームのファンなのだが、その日は、チームが勝てばリーグ優勝を決める大事な試合の、テレビ中継がある日だった。私は友人に頼み込んで、携帯テレビを借り、勉強の合間に応援観戦するつもりだった。  同室の友人は、私が携帯テレビを借りてきたのをみて、今日は何かあるの?と尋ねてきた。これこれこういう理由で、と私は返答すると、友人はイタズラっぽく、「今日は負けるよ。」と言った。  単なるいつもの冗談のやりとりなのであるが、熱狂的なファンの私にとっては冗談どころではなく、すぐさま「今日は13対1で勝つね!」と返した。  どちらともなく「え?」「何その点数。」と声が漏れた。野球好きの方ならお気付きだろうが、試合でそんなスコアになることは滅多にない。私も特に考えなしに、口をついて出た言葉だったので、理由も説明もできず、とにかく勝つんだから!と言葉を継ぐのが精一杯だった。  数時間後、試合が終わり、結局、贔屓のチームが優勝した。スコアはいみじくも、13対1だった。「ほら13対1だったでしょ!」と得意げにいう私。友人は狐につままれたような表情で私を見ていた。

第2話 停電

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    学生の頃、友人4人でシルクロードを旅していた時の話。旅先のとあるホテルに投宿し、夜、私の部屋にみんなで集まって明日からの予定をあれこれ相談していた。  大体の行程が決まった頃、私はみんなにこう尋ねた。「このホテルってちょっと不気味じゃない?」「なんか、こう、空気が澱んでいるっていうかさあ。」実はホテルにチェックインするときから、なんとなくイヤな感じがしていたのだ。  友人たちは同意するものもあれば、そうかなぁ、といぶかしげにするものもいる。そこで私は、裸電球が一つぶら下がっている電灯を指差しながら、こう言ってみた。「もし、今、停電したら怖くない?」  そう、言うが早いか、突然ホテルのブレーカーが落ちた。「わー。」とちょっとした騒ぎになり、「電気消したでしょ!」と詰め寄るものもあった。だが、部屋のスイッチは、みんなで集まっていたところから離れており、そもそもホテル全館が停電しているのだ。  10分程で、電気が戻ってきた。みんなでほっとしていると、ある友人がこうつぶやいた。「中国のオバケなのに、日本語通じるんだね。」その言葉にみんなで顔を見合わせた。  

第1話 今日忙しいから

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 終電帰りが続いていた頃の事。夜ふと目が覚めると、寝ていたベッドの隣の床にヒトの気配がする。暗闇の中、目を凝らしてみると、なんと全裸の自分が床で体育座りをしていた。顔は突っ伏し、表情は分からない。  「明日も早いのに…。」残業は当分続く予定だ。そんなことが頭をよぎると、怖さなんかより、ムカムカと腹が立ってきた。私は「私」に向かって、「今日忙しいから!」(構っている暇はない)そう怒鳴りつけると、「私」を無視してすぐに眠りについた。  朝、目を覚ますと何も変わったところは無し。その後何事もなく、また忙しい日常に戻っていった。

第0話 百物語

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  不思議な経験、話を整理していたら結構な数になったのでブログで紹介することにした。全て私か身の回りの人が経験した実話である。  当面週一位のペースで書いていこうと思うが、時間のある時に更新していくので遅くなることもあるだろう。ゆっくりとお付き合い頂けば幸いである。