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第8話 ラジオ

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    学生時代、全寮制の学校に通っていた。寮室は2人部屋で消灯時間は夜1時だった。ある日の消灯後のお話。  消灯してから間も無く同室の友人の方から、ボソボソと声が聞こえる。どうも、ラジオを聴いているようだ。と、その時あることに気がついた。この寮の消灯はブレーカーごと落とすのでコンセントからも電気が供給されない。いったい、どうやって音が出ているのだろうか。  友人に声をかけてみた。「ラジオ聴いているの?」友人はこう答えた。「やっぱり聞こえる?」友人も困惑しているらしい。「電池で聴いているんじゃないんだよね?」友人は首を横に振りながら、ボソボソと音が聞こえるコンポのコンセントを見せてくれた。壁のコンセントからは完全に抜けている。「どうやって音が出ているの?」「分からない…」と友人。  結局原因は分からずじまい。ただ、同じ出来事は、その友人と同室の1年間の間に、4、5回あったことを記憶している。

第7話 ぐりん

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    通勤途中。横断歩道を渡るために信号を待っていた。私の左隣に男性が一人。片側2車線の道路だった。  一台の車が手前のレーンの停止線に止まった。車側の信号機が赤になったのだろう。歩行者用の信号も、もうすぐ青に変わるはず。  信号が変わって、左隣の男性が信号を渡り始めた。ところが、私は信号が青になっても渡らなかった。「渡ってはいけない。」なんとなく嫌な気がしたのだ。  青信号を立ち止まったままの私。そこに車道の奥のレーンを、一台のタクシーが突っ込んでくる。信号を渡っていた男性の直前で急ブレーキ。事なきを得た。もし私も信号を渡っていたら、ちょうどはねられていたかもしれない。危ないところだった。  唖然としながらも、ほっと胸を撫で下ろしていると、タクシーの運転手が、ぐりん、と首を右斜め後ろに回して私の方に向いた。そして、私に向かって何か話している。  ぶつかりそうになった男性や、後ろに乗っていたお客さんに何かを言うなら分かるのだが、何故私なのだろうか?結局タクシーの運転手は私に何を話したのかは分からなかったが、おそらくこう言っていたのではないか。  「ドウシテワカッタノ?」あくまで想像ではあるが…

第6話 昭和50年

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 子供の頃の記憶。川沿いの堤防沿いに道を歩いている。両手は母と母の妹に手を繋がれている。たまに手を引っ張って体が宙に浮く。  だんだんと目的地のデパートが近づいてくる。7、8階建てくらいだろうか。屋上から垂れ幕が掛かっている。「昭和50年さよならセール」と書いてある。年の瀬なのだろう。  この場面での記憶は今述べたとおりだ。なんの変哲もない子供の頃の記憶なのだが、私はこの記憶に合点がいかないところがある。  私は昭和48年生まれなのだ。つまりこの記憶は私が1歳数ヶ月の頃のもの。ある程度のひらがなが読めるのは、まあ、あり得るとしても、なんで「昭和」が読めているのか?不思議な記憶である。  

第5話 この人じゃない

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    お付き合いをしていた頃の話。彼女の部屋に泊まった日、一緒に寝ていると、夜中に急に目が覚めた。体は動かず金縛りにかかっている。さてどうしたものかと考えていると、ゆっくり、ギシ、ギシ、と階段を登ってくる足音がする。ちなみに、一階は大家さん、玄関が別になっていて、階段を登って二階を貸し間としているという作りだ。  階段を登り終えた足音は、部屋の中に入ってきて、布団に近付いてくる。何か見てしまったらイヤなので目を瞑って寝たフリをした。それでも、とうとう足音は私の隣にたどり着いて、座り込んでしまった。  隣に座ってから、数分経っただろうか。やがて、足音の主はゆっくりと、私の顔を覗き込んできた。5分、10分、ただただ、じっと顔を覗き込んでいる。ずっと寝たフリを決め込んでいると、ようやく足音の主は立ち上がり、部屋を去っていった。  ちょっと気に掛かったのは、足音の主が立ち上がる直前「この人じゃない…」と聞こえた事だ。それ以降、お付き合いの相手とはだんだん疎遠になり別れてしまった。  足音の主は、いったい誰で、この人じゃない、とはどういう意味だったのか。今となってはわかるすべもない。

第4話 方向音痴

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 私は筋金入りの方向音痴だ。デパートから帰ろうとして、出口を見つけようと散々うろうろしたところ、気づいたら結局2階をさまよっていただけだった、なんて経験はざらである。  休日に目的地を決めずに、ドライブをした時の話。適当に車を流していたら、だんだんと交通量も減り、風景も寂しくなっていった。そのうち案内標識に見慣れない街を見つけたのでなんとなく、そちらにハンドルを切ってみた。  程なく目的地に着いてみると、そこは人影が全くなくゴーストタウンのようだった。最後の看板には、「○○鉱山」と書いてあったので、廃坑にでもなったのだろう。ついでと思って、車を降りてその辺を歩いてみた。  だが、何かがイマイチしっくりとこない。何故だろうと考えてみると、ゴーストタウンにしては、家屋も高層棟もそして道路も、全てが新しすぎるのだ。まるで昨日までみんなが住んでいて、生活していたとしても不思議ではない雰囲気である。ただし生活感は全くない。街からヒトだけが急に消えてしまったような感じだ。だんだん怖くなってきて、車に戻り足速に街を立ち去った。  その後、その街には行っていない。怖いのも理由の一つなのだが、方向音痴のせいで、そもそも、どこをどう行ったのか全く覚えていないのだ。

第3話 13対1

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 受験生の頃の話。寮の二人部屋で、朝晩受験勉強に明け暮れていた。そんな中、ほんの息抜き、楽しみの一つが、別な部屋の友人がこっそり寮に持ち込んでいた、携帯テレビ(携帯電話もない時代)を観ることだった。  私は熱狂的な、野球のLチームのファンなのだが、その日は、チームが勝てばリーグ優勝を決める大事な試合の、テレビ中継がある日だった。私は友人に頼み込んで、携帯テレビを借り、勉強の合間に応援観戦するつもりだった。  同室の友人は、私が携帯テレビを借りてきたのをみて、今日は何かあるの?と尋ねてきた。これこれこういう理由で、と私は返答すると、友人はイタズラっぽく、「今日は負けるよ。」と言った。  単なるいつもの冗談のやりとりなのであるが、熱狂的なファンの私にとっては冗談どころではなく、すぐさま「今日は13対1で勝つね!」と返した。  どちらともなく「え?」「何その点数。」と声が漏れた。野球好きの方ならお気付きだろうが、試合でそんなスコアになることは滅多にない。私も特に考えなしに、口をついて出た言葉だったので、理由も説明もできず、とにかく勝つんだから!と言葉を継ぐのが精一杯だった。  数時間後、試合が終わり、結局、贔屓のチームが優勝した。スコアはいみじくも、13対1だった。「ほら13対1だったでしょ!」と得意げにいう私。友人は狐につままれたような表情で私を見ていた。

第2話 停電

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    学生の頃、友人4人でシルクロードを旅していた時の話。旅先のとあるホテルに投宿し、夜、私の部屋にみんなで集まって明日からの予定をあれこれ相談していた。  大体の行程が決まった頃、私はみんなにこう尋ねた。「このホテルってちょっと不気味じゃない?」「なんか、こう、空気が澱んでいるっていうかさあ。」実はホテルにチェックインするときから、なんとなくイヤな感じがしていたのだ。  友人たちは同意するものもあれば、そうかなぁ、といぶかしげにするものもいる。そこで私は、裸電球が一つぶら下がっている電灯を指差しながら、こう言ってみた。「もし、今、停電したら怖くない?」  そう、言うが早いか、突然ホテルのブレーカーが落ちた。「わー。」とちょっとした騒ぎになり、「電気消したでしょ!」と詰め寄るものもあった。だが、部屋のスイッチは、みんなで集まっていたところから離れており、そもそもホテル全館が停電しているのだ。  10分程で、電気が戻ってきた。みんなでほっとしていると、ある友人がこうつぶやいた。「中国のオバケなのに、日本語通じるんだね。」その言葉にみんなで顔を見合わせた。  

第1話 今日忙しいから

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 終電帰りが続いていた頃の事。夜ふと目が覚めると、寝ていたベッドの隣の床にヒトの気配がする。暗闇の中、目を凝らしてみると、なんと全裸の自分が床で体育座りをしていた。顔は突っ伏し、表情は分からない。  「明日も早いのに…。」残業は当分続く予定だ。そんなことが頭をよぎると、怖さなんかより、ムカムカと腹が立ってきた。私は「私」に向かって、「今日忙しいから!」(構っている暇はない)そう怒鳴りつけると、「私」を無視してすぐに眠りについた。  朝、目を覚ますと何も変わったところは無し。その後何事もなく、また忙しい日常に戻っていった。

第0話 百物語

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  不思議な経験、話を整理していたら結構な数になったのでブログで紹介することにした。全て私か身の回りの人が経験した実話である。  当面週一位のペースで書いていこうと思うが、時間のある時に更新していくので遅くなることもあるだろう。ゆっくりとお付き合い頂けば幸いである。