第7話 ぐりん
通勤途中。横断歩道を渡るために信号を待っていた。私の左隣に男性が一人。片側2車線の道路だった。
一台の車が手前のレーンの停止線に止まった。車側の信号機が赤になったのだろう。歩行者用の信号も、もうすぐ青に変わるはず。
信号が変わって、左隣の男性が信号を渡り始めた。ところが、私は信号が青になっても渡らなかった。「渡ってはいけない。」なんとなく嫌な気がしたのだ。
青信号を立ち止まったままの私。そこに車道の奥のレーンを、一台のタクシーが突っ込んでくる。信号を渡っていた男性の直前で急ブレーキ。事なきを得た。もし私も信号を渡っていたら、ちょうどはねられていたかもしれない。危ないところだった。
唖然としながらも、ほっと胸を撫で下ろしていると、タクシーの運転手が、ぐりん、と首を右斜め後ろに回して私の方に向いた。そして、私に向かって何か話している。
ぶつかりそうになった男性や、後ろに乗っていたお客さんに何かを言うなら分かるのだが、何故私なのだろうか?結局タクシーの運転手は私に何を話したのかは分からなかったが、おそらくこう言っていたのではないか。
「ドウシテワカッタノ?」あくまで想像ではあるが…
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