第10話 およげ!たいやきくん

    3歳くらいの記憶。集合住宅に住んでいた頃。母は家事の合間に、同じアパートの奥さん方と井戸端会議をするのが日課だった。母が外に出る時、玄関の外側から鍵をかけていた。鍵の開け方がわからなかった私は、そうすることによって毎日家に閉じ込められていた。井戸端会議には私が邪魔だったのだろう。

 その日も外側から鍵をかけられ、私は家に閉じ込められていた。家の中で退屈にしていると、なんと、冷蔵庫の下からずるずると人影が出てくる。よく見るとその頃流行っていた、「およげ!たいやきくん」を歌っている、子門真人が出てきたのだった。

 子門真人は、親切にも玄関の内鍵を開けてくれた。そして鍵の開け方も教えてくれた。私は大喜びで外に出て、母のところに行って、今の出来事を話した。

 母は、もちろん子門真人の話は信じなかったのだが、私が外に出てきたことにびっくりしていたようだった。母は玄関の鍵の開け閉めを私に見えないように、体で隠していたからだ。

 今考えれば子門真人の事は夢だったのかもしれない。ただ、次の日から私は自由に外に出ることができるようになったのは事実だし、母もそのことについてはとても不思議がっていた。


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