第14話 シートベルト

    小学生の頃の話。正月を過ぎて間もなく、曽祖父が亡くなったという知らせが入った。曽祖父の家は車で5時間ほどのところにある。早速家族4人車で曽祖父のお葬式に向かった。

 大雪の日だった。曽祖父の家まで約半分くらいのところで、スリップして対向車線をはみ出した対向車とモロに衝突した。運転していた父は首の骨を折る全治6ヵ月の重体、助手席の私を含む残りの3人は奇跡的に軽傷で済んだ。

 一時は病院のICUで生死の境をさまよっていた父だったが数日経ってようやく危篤状態を脱した。

 そんな一息ついた折の頃。母がこんな事を呟いた。「出発前、お父さん、みんなに「シートベルトしたかー」って言ったよね。あれでみんなシートベルトしたから後ろの私たちも含めて大怪我なかったけど、普段お父さんシートベルトのことなんか言わないよね。」

   30年以上前の話。シートベルトについては今よりだいぶ緩い時代。結局父がシートベルトの話をしたのはその時が最初で最後だった。

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