第15話 父の背中
私の父の子供の頃の話。父は子供の頃、山奥の集落に住んでいた。ある日、父の父親が用事があって一山越えた隣の集落に行くこととなった。それに父もついていくことになった。
用事が長引き、帰り道は大分暗くなっていた。早く家に着くために父は父の父親におんぶしてもらって、山道を早足で歩いていた。
ふと、突然父の父親が立ち止まった。立ち止まったまま木の上をじっと見つめている。少しして、また突然父の父親は歩き始めた。先ほどよりも大分早足である。
父は一連の行動を不思議に思い、背中から「どうしたの?」と聞いてみた。父の父親の返事はこうだった。「木の上に人がいた。あれは同じ村のSさんだった。」Sさんは病気で数ヶ月寝込んでいる人であった。そんな人がこんな夜中の山の中に?父はにわかには信じられなかった。
村に着いたら、父の疑問は氷解した。村ではSさんのお通夜のちょうど真っ最中だった。
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